千葉県の一角にちんまりと建てられた一軒家。
そこには、ひしぎという美しい奥さんが住んでいるのでした。
《幸せ家族計画(前編)》
時刻は朝。
ベランダの扉がガラリと開け放たれる。
日差しがさんさんと降り注ぎ、その光がひしぎの白い肌を際立たせるように照らす。
ひしぎは視覚への強い刺激に手で顔を覆い、やんわりと微笑んだ。
――今日は、洗濯日和ですね。
くるりと振り返り居間のテーブルへ目を向けると、赤い目隠しをしてぱくぱくと朝食を口に運んでいく男の姿が見えた。
美味しそうに食べているが、時々箸が妙な動き方をする。
何かと思いじっと見ると、きれいに人参をよけていた。
「遊庵、ちゃんと野菜も食べないと大きくなれませんよ!」
「今だって十分デカいしいいじゃねェか」
「そんな事言ってるから高校生にもなって母親である私の身長も抜けないんです」
痛いところを突かれた遊庵は、しぶしぶながらよけていた人参を口に運ぶ。
それを見てひしぎはふふっと微笑み、洗濯物のシワを広げてふわっと舞うように干す。
その柔らかな仕草が美しく、遊庵はぼーっとひしぎを見つめた。
しとやかな身のこなしは、水槽を楽しげに泳ぐ熱帯魚のよう。
憂いを帯びた瞳から目が離せなくなったのは、いつからだったろう。
恋心を、抱き始めたのは。
遊庵は17歳。
子宝に恵まれない(当たり前)ひしぎとその夫が若い頃に養子として引き取った子供だ。
義理の親子なので、ひしぎはまだ30歳という高校生の母親としては異例の若さ。
そんなひしぎの悩みの種はひとつ。
遊庵が何故か夫には慣れず、ずっとひしぎにべったりでいることだ。
(彼とも仲良くして欲しいのですがね…)
遊庵がひしぎを母親でなく恋愛の対象として愛しているからだという事にはもちろん気付かない。
遊庵にはそれがもどかしくて仕方が無い。
今もこうして自分がひしぎを熱っぽい瞳で見つめていることにも気付いてくれないのだ。
まあ、いつものことだが。
食事を終えた遊庵は立ち上がり、小さく「ごちそーさん」と言って鞄を持ち廊下へと歩を進めた。
「じゃーガッコ行ってくっから」
「あ、待ってください遊庵!」
玄関から出ていこうとする遊庵を制止し、ひしぎがベランダからぱたぱたと駆けてくる。
その手には、赤いネクタイ。
「忘れていますよ。付けてあげますから、こっち向いてください」
仕方の無い子ですね、と言うように小首を傾げてはにかみ、慣れた手つきでネクタイを結んでいくひしぎ。
(そ・・・・・・その顔は反則だッ!)
遊庵はどぎまぎしながらもこの状況が嬉しい。
が。
「ひしぎ…そこ、目なんだけど」
「あッ…!すみません、何故か手が自然に…」
遊庵ってば目隠しの印象が強すぎるんですよ、と顔を赤らめて目を伏せる。
その様子がたまらなく可愛い。
恥ずかしそうに手を添えたひしぎの柔らかそうな唇に、欲情してしまう。
その白い指も
艶やかな黒髪も
全部を、自分のものにしたい。
「い、今結び直しますね」
目に巻いたネクタイを取り、改めて結ぼうとしてひしぎは手を胸元に伸ばした。
その手首をぎゅっと掴みじっと目を見据えると、不思議そうな顔をしてひしぎが遊庵の顔に視線を向けた。
「もういらねぇ。オレ今日学校行かねーから」
「もうッ、何言ってるんですか!?試験も近いんですからそんなこと――」
「…ひしぎ」
「母さんと呼びなさい!アナタは何度言ったら………ふぁ、んんッ!」
ひしぎの肩を抱き寄せ、唇を合わせて舌を絡め取り口内を侵す。
必死で遊庵の胸を押し抵抗を試みるひしぎだが、生温い快感が全身を襲い力が入らない。
腰が抜け床に崩れ落ちたところを、そのまま押し倒して跨った。
「んあッ……遊庵、何のつもりで…」
涙目になってびくびくと遊庵を見つめる。
だがそんな視線は逆効果だ。
過虐心をそそられるだけ。
「我慢の限界なんだよ。…俺だって男だ」
「ダメですこんな…ッ!止めてゆあ……ふぁッ!」
上着に手を入れするすると滑らせていく。
透き通るように白いひしぎの肌に、遊庵の健康的な少し焼けた肌の色がよく映える。
ひしぎは肌を滑るぞわぞわとした感触に耐え切れず、声を漏らしてしまう。
「いつまでも親父なんかのモノにはさせとかねェ」
…何で遊庵が息子なんじゃ、という話。普通家族ネタといったら夫婦ですよね;
無駄に前後編だし。すみません(^^;
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