《幸せ家族計画(後編)》









「い、ぃや…ッ、ダメです親子でこんな…ッ!」

「源氏物語って読んだことねェ?光源氏は自分の義理の母親をハラませたんだぜ」



親子とか家族とか、そんなもん越えちまうことってあるんだって。
そのいい例。



遊庵は首筋に何度もかじりつく。
点々と残る赤い跡。
これは自分のモノだと主張する。



「んぁッ…遊庵、アナタは私達の可愛い子供で…」

「親父のこと持ち出してんじゃねえ!」



遊庵は毒づく。
ひしぎはいつも夫の話ばかりするのだ。
独身時代の事やらプロポーズの言葉やら遊庵の知らない事を、本当に嬉しそうに話す。
その度にイライラして、焦りを感じた。
何でもっと早く生まれてこなかったんだろう。
俺は一生親父には適わないのか?
そう思うと、いてもたってもいられなかった。




「俺しか受け入れない身体にしてやるよ」

「!やめ…ッ」




涙を流して体いっぱいで遊庵を拒むひしぎを美しいと感じるのは自分が狂っているからだろうか。
そんな事を思いながら遊庵がひしぎの下肢に手を伸ばした、その瞬間。


















―――背後から激しく回し蹴りをくらって吹っ飛んだ。




















「私のひしぎに何やってんですか」



いきなり何なんだ、と思い慌てて後ろを見やれば、黒い黒いオーラを放ちながらにっこり微笑む村正の姿があった。





「ひしぎ……大丈夫ですか?」

「む、村正!?何故アナタが…」



優しくひしぎの頬を撫でる村正。微笑みは絶やさない。
しかしひしぎは安堵よりも疑問の気持ちでいっぱいだった。
なぜなら村正は――















「魚屋の店主が何でここにいるんだよ!」

「黙りなさい遊庵、三枚にオロしますよ?」




本当にただの魚屋で、ひしぎとは赤の他人なのだ。
たまに買い物に行くとものすごいサービスをしてくれると以前ひしぎが嬉しそうに話していた。
つまり、それだけの関係。
どうやって家に侵入したのだろう?
と言っても、この男ならセキュリティ万全の美術館から宝石を盗み取るのも簡単な気はするが。




村正はふふんと笑って自信満々に言い放った。




「昔から人妻の浮気相手といえば魚屋と相場が決まっています」

「……私、浮気した覚えはありませんが」

「んー、ひしぎはシャイで可愛いですね♪」



ひしぎの言動などおかまいなしに抱き締める村正。
しかも何気なく手を服の中に忍ばせようとしている。





「んやッ…、止めてください!」

「テメェ…その手を離せ!」



顔を赤くして抵抗するひしぎに、キレる寸前の遊庵。

――と、その時。









「…お前ら、俺の妻に何をしている」


「親父ッ!?」




たまたま書類を忘れて帰ってきたらしい吹雪は、この光景を見て唖然とした。
この吹雪こそ人生の勝者、ひしぎの夫である。


邪魔者の到来に村正は軽く舌打ちし、遊庵までもがすこぶる嫌そうに吹雪を睨み付けた。


「ふ……吹雪!うっ…ひっく、怖かったぁぁッ!」



ひしぎは村正の腕を振り切り、吹雪の胸元に抱き付きわんわん泣く。
吹雪は二人を一睨みした後、震えるひしぎの肩を抱き自室へと連れて行った。










* * * * *










ひっくひっくと嗚咽するひしぎをソファに座らせ、不安な気持ちを追い払うようにぎゅっと手を握ってやる。


「本当に何もされなかったか?……全く、村正はいつか手を出すだろうと思っていたが…遊庵までとは」

いっそ孤児院へと送り返してやろうかと思う吹雪。
イヤ駄目だ、そんな事をしたら親子という重荷がなくなってますますひしぎに言い寄るに違いない…と悶々と悩む。

「でも、吹雪…」

やっと泣き止んだひしぎは顔を上げ、頬を紅潮させてはにかむ。

「遊庵は……、随分素敵な男性に成長しましたね」

「!」

マズい……と夫婦関係の危機をひしひしと感じ冷汗を流す吹雪に対し、ひしぎはにこにこと「息子の成長って楽しいですよね」などと楽しそうに語る。


どうやら遊庵少年にも望みはあるらしい。







「親父にはぜってー負けねェ!」



魚屋村正、妙に人気が高かったです(以前メルマガで配信していたものを載せてます)
何故だろう……。ひしぎとの浮気をもくろむ、って設定できた時点でパッと「魚屋」としか思いつかなかったんですが(^^;

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