《続続・幸せ家族計画(後編)》
自分の名を呼ぶ低い声が、夫のものではない事に気が付いたひしぎは目を丸くした。
「えっ……遊庵ッ!?」
「本当に今頃気付いたのかよ…」
親父が髪でしか認識されていないのも同情する話だが、逆に言えば俺の存在も意識されていないという事で。
こんな目立つ赤い目隠しまでつけているのに、どうしたら親父と間違うんだよ。
………切ねぇ。
遊庵は少しうなだれ、それから真剣な面持ちでひしぎを見つめる。
その視線に微かな畏怖を感じ、ひしぎは自分の胸に直接触れている手を恥ずかしそうにちらちら横目で見ながら遊庵に目を向けた。
「ゆ、あん……?あの、どいて下さい…」
語尾は消え入りそうに小さいが、しかしどこか間の抜けた感じは否めない。
どうやら本気で遊庵の行動の理由が分かってないらしい。
信頼されているというのはある意味ありがたいが、ここはその信用を裏切っておく必要がある。
「ゆあ……ひゃっ!」
不意に胸の突起を舐め上げられ、声を上げるひしぎ。
しかし驚く暇もなく、遊庵は猫が毛繕いをするように敏感な場所を丁寧に舐め続ける。
「ちょ……ふざけないで、下さ…ッ」
ビクッと震えながらも弱々しい力で押し返そうとしてくる。
そんな怯えた姿がますます過虐心を煽ってならない。
「お前が誘ってきたんだろ?」
わざと耳元で低く囁くと、ひしぎはかあっと赤くなり目を潤ませた。
「違…っ、あれは吹雪と間違えて…!」
「そんなの理由になるかよ」
そう言うと遊庵はひしぎの下の衣服を脱がしにかかった。
「いやぁッ!何をする気ですか!」
必死に暴れるひしぎだったが、太股の内側を指でなぞられ力が抜ける。
「何するかって…?決まってんだろ」
やんわりと焦らすように足の付け根あたりを撫でていく。
ひしぎの吐く息は荒くなり、快感を求めるように身体をよじった。
体がこうも素直に反応するのは吹雪に普段から慣らされているせいかもしれない。
「アうッ……いや、です…やめて…」
身体が反応してしまうのが辛いのだろう、ひしぎは涙を流す。
だが遊庵は手の動きを止めない。
「…ッ親子なんです…!」
唇をギュッと噛み締めぽろぽろと泣き濡れるひしぎが痛々しかった。
「……分かってるよ」
対して遊庵の表情にも陰りの色が見える。
義理だろうが、親子は親子だ。
だが別に養子縁組した事を後悔している訳ではない。
ひしぎ達が自分を引き取ってくれなければ、出会えさえしなかったのだ。
この家の息子になったからこそ今自分はひしぎに惚れている、それは変えようのない事実だ。
でもさ。
スキなんだよ。
どうしようもないくらい、好きなんだって。
「…ひしぎ」
頬を伝う涙を優しく指で拭ってやる。
眉を八の字にしてこちらをを見上げるひしぎに顔を近付ける。
「俺は、お前のことが…」
好きだ――と言おうとしたところで、
電話のベルが鳴り出した。
プルル、プルルル……
電話特有の無機質な電子音が静かな部屋に響く。
「ゆ…遊庵、ほら、電話鳴ってますから!」
「…聞こえねぇよ」
「っ!やぁ、ゆあ……」
必死に逃げ道を探そうとするひしぎを尻目に、手を奥へと進める。
今更やめられるかよ。
「んっ……ふぁ…」
胸の突起を舐め上げれば、小さく漏れる甘い声。
ほら、感じてんじゃん。
すすす、と手を秘部へと近付ける。
じっとその手の行方を見つめているひしぎは涙を流して息を飲んだ。
と。
「出ろっつーんだよ遊庵―――!!いるの分かってんだからねッ!!」
いきなり
電話が、吠えた。
いや、正確に言えば電話の向こうの時人が吠えたのだ。
二人とも呆気にとられ、ぎゃんぎゃん部屋に鳴り響く時人の罵詈雑言にただただ電話をぽかんと見つめた。
どうやら無視しているうちに自動で留守電に切り替わったらしい。
遊庵は急いで立ち上がり、電話を取った。
「何だよ時人、おま――」
「黙れ黙れ!お前に渡した包みが間違ってたんだよ」
「ああ…」
確かに、吹雪のヅラなんて悪趣味なもん貸すワケねぇよな。いくら何でも…。
「あれは本物!ホントはレプリカ貸すつもりだったのに…」
「はぁ――ッ!?」
本物って何だ。
レプリカがあるって何だよ。
親父の髪ってマジでヅラだったのかよ。
つーか何で両方持ってんだ、お前。
どこからツッコミを入れていいやら分からない。
「あーあ、僕がここまでしたんだから、もちろんひしぎとは上手くいったんだよね?」
お前の電話が来るまではな。
「わかんないなぁ…何であんな根暗がいいの?」
「うるせぇっ!好きなんだよ、愛してんの!!」
電話の向こうで溜息をつく音が聞こえた。クサいのは自分でも分かっているが、普段から「吹雪さんだぁーいすきv」と恥ずかしげもなく言いまくっているコイツには言われたくない。
「あっそ。まぁいいや、とにかくソレ早く返しにきてよね」
「ああ……今すぐにでも行ってやるっつーの!」
そう言うと遊庵はガチャンと乱暴に電話を置いた。
時人のせいでひしぎとのもうこれ以降チャンスがあるか分からない濡れ場を邪魔されたのだ。直接に文句の一つも言わねば気がすまない。
「遊庵……」
不意に後ろから声がした。
はっと気付いて振り返ると、乱れた衣服を直して遊庵を見つめるひしぎの姿。
(………ヤバイ、どうしよう)
本日二回目の滝汗。
勢いでヤッちゃえばどうにかこうにかなったんだろうが、こんな中途半端ではもう言い訳してこの場を取り繕うしかない。
しかし言い訳なんて思いつくはずもなく。
悶々と悩む遊庵に対し、ひしぎは満面の笑みを浮かべて頬を染める。
「遊庵……私は嬉しいです」
「えっ!?」
やっと。
やっとのことで、ひしぎに想いが通じたのか。
しかもそれを嬉しいと言うひしぎ。
「本当……か?」
「ええ」
ひしぎは手を合わせてはにかむ。
やっと。
やっとのことで――
「遊庵と時人が恋人だったなんて!」
………。
「なんで――っ!?」
違う。
違う違う違うっ!!
「さっき愛を語り合ってたじゃないですか。『好きだ、愛してる』って。…ああ、聞いてて私までドキドキしちゃいました」
私も若い頃は…いえ、今でも吹雪に言われてますvvとノロケをかますひしぎ。
「そうじゃない!あれは…」
「恥ずかしがらなくていいんですよ。電話一本ですぐに会いに行くほど深く愛し合ってるんでしょう?素敵です…」
どうやら先程の電話でひしぎは思いっきり勘違いをしたらしい。
もうすっかり応援体制に入っている。
(待てよ、オレついさっきお前を襲ったばっかだろーが!)
と、ひしぎは思い出したようにあっと呟き、恥ずかしそうに俯いた。
「あの……遊庵。あなたの不安な気持ちはよく分かります」
「…いや、お前は全然分かってないって」
いいえ!とふるふる首を振って少し照れ笑いをする。
嫌な予感。
「初体験は緊張しますよね…。でも誰でも最初ははじめてなんですから、何も私で練習する必要ないと思いますよ。大丈夫ですから、全力でぶつかっていって頑張ってください!」
(どこをどうどれほどまでに曲解したらそんな突飛な見解に行き当たるんだ――!!)
遊庵の気持ちはひしぎには全く伝わらない。
落胆して影を背負う遊庵には気付かず、るんるんと軽快なステップを踏んでひしぎは部屋を後にした。
「村正にも報告してきますね。二人が結婚したら、みんな家族になるんですからvv」と言い残して。
残された遊庵はと言えば。
「ちくしょぉぉ〜ッ!!」
布団にくるまって泣いていた。
頑張れ遊庵!
みんなお前を応援(=同情)してるぞ遊庵!
キミに明日はあるのか!
やっぱり遊庵は苦労人でしたと、さ。
…こんなオチでいいのだろうか、とすごく不安に思います。でもやっちゃうとひしぎが吹雪と遊庵に挟まれてドロドロ〜のシリアスに発展してっちゃいそうなので、この辺で終わらせないと。微エロなんて半端なとこ突いてすみません;
実はちゃんとゆんひしになってる短いオマケがあります。こんな変なオチじゃイヤーという方は良かったらご覧下さい。
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