これは17歳遊庵少年の不憫な話である。






《続・幸せ家族計画》






ピーチクとひばりの鳴き声が聞こえる、朝。
ひしぎはそっと遊庵の部屋のドアを開け、すやすやと幸せそうに眠りにつく人物に目をやった。

「遊庵、起きて下さい。学校に遅れます」

揺さぶりながら話しかけるが、ベットに横たわった遊庵はぐーすか寝息をたてて動かない。
ひしぎは困ったように一つ溜息をつき、耳元で甘く囁く。


「ゆ・あ・ん…」

「うわぁぁッ!」


遊庵は真っ赤になって飛び起きる。
それを見たひしぎはほっと顔をほころばせた。

「あ、やっと起きましたね。やっぱり耳元で叫んだ方が刺激になるんですね」

(あれは叫んだのか!?)

朝っぱらからこんな起こし方をされた遊庵は胸のドキドキが収まらず。

「なぁ、俺自分で起きるからもうソレ止めてくれよ。朝って男が一番元気な時間帯なんだぜ?俺の息子もそうだし」

「は?息子は貴方の方でしょう。母親が私です」

(わかってねぇ…。こいつにゃセクハラ発言も効果ナシかよ)

どこまでも純で鈍感なひしぎは、遊庵が義母の自分に恋愛感情を持っている事などまるで気付かない。
早く支度してご飯食べにきてくださいね、と言ってパタパタと台所に駆けていく。

(そろそろ限界なんだけどな…)

ささいな素振りやちょっと襲ってみたくらいでは自分の気持ちに気付いてもらえない。(事実、先日の村正乱入での一件も「そんなにプロレスごっこがしたかったんですか?」と無垢な瞳で返されてしまった)
どうにかして最後までヤってしまえばいいんだろうが、ひしぎの寝室は夫の吹雪と一緒で。
しかもたまに(というかほぼ毎日)「あぁんッ!…ふ、ぶきィ……」などと艶っぽい声が聞こえてくるものだから、夜におちおち近くを通りかかる事もできない。
時々覗いてみたいという衝動にかられてどうしようもなくなる。だが、乱れたひしぎは見たいがあのにっくき親父は見たくない。そう、言うなればツーショット写真の半分だけ切り取りパスケースに挟めておきたいとか、そういう心情。

(ちくしょーあの獅子舞親父、いつか殺す!)

せめてひしぎと二人きりの時間さえあれば――そんな事を考えながら着替えを終えて居間に行くと、、ひしぎが台所で料理をしながら口を開いた。

「そうだ、吹雪今日は会社に泊まるそうですよ」

「えっ!?」

吹雪は朝早く出て行くのですでにもう会社に向かっている。

「何だかお仕事が溜まってるとかで…徹夜だそうです」

そう言った自分の言葉を反芻するように、ふっと野菜を切る手を止め、静かに俯き涙目になった。

「吹雪を信じていますが…もし、浮気だったら私…う…ひっく…」

ポロポロと涙を流す姿にぎょっとし、遊庵はばっと台所へ走りひしぎの肩を抱いて必死で宥める。

「そんなハズないだろ、親父に限って。な?(浮気してくれた方が俺的には好都合だけど)」

「そうですね…。有り難うございます、遊庵」

涙を軽く拭いて、少し切なげにはにかむひしぎの顔はとんでもなく可愛くて。

(このチャンス、絶対モノにしてみせるぜッ!)

手で小さくガッツポーズをしながら、足取り軽やかに遊庵は学校へと出発していった。
それを手を振りながら見送ったひしぎは、ふと考え込み。

「そういえば吹雪が言った「対策はしてあるから安心しろ」とはどのような意味でしょう…?」

どうやら波乱の夜になりそうだ。

















* * * * *

















「ただいまっ!」

「お帰りなさい、遊庵」

玄関のドアを思いっきり開いて家へと意気揚々と飛び込む遊庵を、ひしぎはエプロンを着けてにっこりと微笑み出迎えた。

(くッ…新婚夫婦みてェ!)

心の中で遊庵はじーんと涙する。
いつも部活で帰りが遅いので、早上がりの吹雪の帰宅の方が早いのだ。
遊庵が帰る頃には2人でいちゃいちゃしていて、出迎えてなどもらえない。
だからこんなささいな事にも幸せを感じてしまう。
と、悦に浸っているひしぎの持っているハタキに視線が向いた。

「何してたんだ?」

「暇だったので遊庵のお部屋を掃除していたんです。あ、こんなの見つけましたよ!」

そう言ってひしぎが脇からうんしょうんしょと引きずってきたのは、大きなギターケース。

(げっ…!)
遊庵はたじろぐ。
そんな遊庵の変化になど気付かず、ひしぎはニコニコと話を続ける。

「遊庵も男の子ですね♪ギターが好きなんて知りませんでした。一曲弾いて下さいよ」

「あっ、バカ開けるなッ…!」



――パカッ。



中から出てきたのはギターではなく、裸のおねーちゃん等がひしめく本の山。
予想外の中身にひしぎは固まり、遊庵は額に手をやってうなだれた。

(隠しておいたのに…)

ひしぎはハッと意識を取り戻すとみるみる真っ赤になり、バタンと強くケースを閉じた。

「ゆ、遊庵も男の子…ですからね…」

口ではそう言っているが、どう見ても納得している様子ではない。
遊庵がやりきれなくなって思わず肩に手を伸ばすと、びくっと震えて瞳を潤ませた。

「ひしぎ……」

「あ…、あのっ!勝手に部屋に入ってすみませんでした!」

早口でそう言うと、くるりと背を向けて顔を覆い、足早に自分の部屋へと去っていってしまった。

(やっちまった…)

吹雪との情事で漏れるひしぎの声に耐えられず、エロ本でなんとか欲望を処理していたのだが。
ちくしょう俺は悪くねえぞ俺だって17じゃんつーか息子にバレるようなヤり方してんじゃねぇよクソ親父がよと一人ごちる。
しかし――ふと思う。これはいい機会かもしれない。
俺もそういう欲望がある一人の男だと、ひしぎに分からせればいい。

「(よし決めた!今日はぜってーヤる!襲う!)おい、ひしぎッ…!」

遊庵は胸を高鳴らせながらひしぎの部屋のドアを勢いよく開く。
――が、そこでは。






「ちょっと遊庵、閉めて下さいよ。今からイイとこなんですから」

にっこり笑った村正が、ひしぎを組み敷いていた。

「ふあッ…遊庵、この人どけて下さい!」

ひしぎはよっぽど怖かったのか、ひっくひっくと泣いている。
衣服が少しはだけているのは村正の仕業だろう。
遊庵は一瞬真っ白になり思考停止した後、もの凄い勢いで村正をひしぎから引き剥がした。

「テメェ何しに来やがった魚屋――ッ!!」

「吹雪に頼まれたんですよ」

「はッ!?」

村正はブラックな微笑みを崩さず一通の手紙を差し出した。
何なんだと思いながら受け取り、パラッと開いてみる。
そこには達筆な筆文字で次のように書かれていた。


『俺に代わりひしぎを遊庵から守ってやってくれ  吹雪より』


遊庵はそれを見るなりわなわなと震え、手紙をビリビリ引き千切って叫んだ。

「ぁンのクソ親父――ッ!!」






* * * * *






(ふう…、あの2人を一緒にさせておけば互いに抑制し合って丁度いいだろう)

書類を手にして吹雪はひと息つく。
片付けなければならない仕事が山と溜まっている。それもこれも、ひしぎを愛すあまりにいつも定時の5時きっかりに会社を出て行くからだ。仕事が残っていようがいまいが、愛しいひしぎの待つ家にダッシュで帰る。
それでカンヅメで仕事という、こんな事態を呼んでしまったわけだが。

残業が決まった時点で問題点は分かっていた。あのバカ息子をひしぎと夜2人きりになどできるわけがない。
ちゃんとその辺を理解している吹雪は村正に自分の留守を頼んだのだ。

(…何か嫌な予感はするが)






* * * * *





遊庵が部屋を駆けて出て行った後、ひしぎは村正をキッと睨んだ。
村正はたじろぐことなく首を傾げ、ふふふと不気味な笑みを浮かべる。


「私を守るはずの貴方が私を襲ってどうするんですかッ!」

「ひしぎ…私は吹雪の代わりを頼まれたのですよ?」

「は?だから…」

ひしぎが言い終わる前に、村正はその細い体を押し倒してニコリと人の良い笑みを浮かべた。

「今日は私がひしぎの旦那さんですvv」

「え…ん、ひゃあんッ!…やめっ…」

村正がひしぎの上着をたくし上げて胸の突起にかじりついたその刹那、妻の危機を察知して帰ってきた吹雪に止められたとか。




ちなみにその時、役立たずのヘタレ遊庵少年は自室の布団で涙目でフテ寝していたそうな。


「クソッ…諦めねーからな!」



もうひしぎは大人気です。アイドルです。でも男(笑)
というか吹雪帰ってきてどうするんだろう。また仕事溜まるじゃんかよ。残業エンドレス!
コレ本当は某N様とのメールで出てきたネタなんですが、それでは村正旦那設定でした。(遊庵息子とかいう変な設定出したのは私)
でもそれじゃ最強すぎて遊庵勝ち目ねえ!と思い吹雪に変更。そして魚屋村正。(笑)
ヘタレな攻めが好きですv

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