この二本の脚をもぎ取って


私をダンスに誘って下さいませんか























《輪舞曲(ロンド)》























今宵は満月
貴方の居場所もすぐ判る






「………やはり此処でしたか」






陰陽殿の片隅にある 小さな箱庭の縁際
貴方はいつもそこにいる












場所を違えてもすぐ判る私は貴方の匂いをたどる。












声をかけても身じろぎ一つせず じっと月を見上げている貴方



それはそれは愛しげに
それはそれは人しげに











時を刻まぬこの場所で、時を刻み続ける月を凝視する

なんて特恵で滑稽なこの光景。













「辰伶には手当てを施しておきました」

「余計なことはするな」

「ええ」











隣に腰を下ろし、貴方と同じく夜空を見上げる
貴方はこちらには視線をやらず、月から目を離さない













ああ、私達は同じ空で繋がっている













「手に入るものでもありませんでしょうに」


私をあまりに見ない貴方はいつものことだけれど
それを私が淋しく思っていることは知っているでしょうか
きっと分かっていて無視を決め込んでいるのだと思うと、少し苛立たしく
そんな嫌味を言ってみた









「手に入る」

「……え?」

「月は少しずつ地球に近付いてきているんだ。ほんの僅かずつ、な」









そう言った貴方の瞳は真剣で
つい笑ってしまいそうになる









貴方は、あの鈍く光り輝く月を手に入れたいのですか。









何百年もの時を経て未だこちらに来ないものを
いずれは手に入るものだと――本当に考えているとは思わないけれど
私は貴方のそんなところが好きです








届かぬ思いに胸をはせる、ないものねだりの夢想家

そう、それは私によく似ていて










「手中に入れたら、どうなさるおつもりで?」

「さあな。知らん」










くすりと鼻で笑い、目を細める貴方はどこか淋しげで
思わず、手を伸ばしてしまった








「………何のつもりだ」

「さあ。知りません」









腕にかけた手を、肩に寄せた顔を振りほどくわけでもなく
一向に満月から目を離さない貴方







その金色の瞳は毎夜の月の色が映ったのでしょうか
曇ることがないようにといつも祈っております
私の醜い暗色で曇るくらいなら、いっそそのまま。









「綺麗な月夜だな」









私は答えを返さない
これは貴方の独り言
誰に語ったわけでもない世迷い言






貴方はそうやって、がむしゃらに月に恋焦がれている
手に入れようと虚空に手を伸ばす







月を呼び寄せれば、地球はその重圧に耐え切れず死ぬのです
そんな事も知っている貴方は、卑怯なエゴイスト
自分の死さえも厭わない














親友はこの地を去り 愛弟子をも手にかけ
それでも貴方は求めることを止まない



温度などないその体で、どこまで行くのでしょうか















「ずっと、お側におります……」






貴方が地獄へ行くなら地獄に

血の池を歩くならそこへ

五体を千切られようと決して歩みを止めない貴方の隣に私を











どうか、置いて下さい











「……綺麗な月夜だ」







貴方は答えを返さない
これは私の独り言
誰に語ったわけでもない世迷い言















だから、痛い
















痛くてたまらない、ずっと一緒にいたくてたまらない




そんな、戯言











「ええ……」









ぎゅっと腕を掴む私の手を振り解かないのは、貴方が人を恋しがっているから

私は知っている、貴方はどうしようもなく人を遠ざける淋しがりやの孤介舞者

一人舞台に立ち続け、見事な舞いを演じてみせる











「今宵は朝までお側にいさせて頂けますか」

「……ああ」










小さく呟いた声は耳に届いたようで、頭を大きな手が覆って静かに髪を撫でた
そのまま手が私の胸元に滑り降り、黒い衣の下の肌をくすぐる
貴方の整った顔が近付いてきたので、私はそっと目を閉じた














私は貴方の目に捉えられるこの一瞬の為に生き続ける















深く深く、全てを奪うように求め唇を重ね合う
ゆっくりと体を後ろに倒す
落ちて、堕ちて、遠ちて











舞台の上で涙を流す貴方はそれでも舞うことを止めない

舞う端から舞台が崩れていくのを目の当たりにしているから




ならば、共に舞いましょう

全ての罪を背負い込んで、ひとりで踊らないで

この手を取って、さあ私の折れて立たぬ足をその手で抱き起こして








ワルツを
踊りあかしましょう















鬼束ちひろさんの「私とワルツを」は私的吹ひしソングですvv
ひしぎが吹雪を好きなのって、吹雪が必死になって壬生を守ろうとするからだと思うんですよ。
どんなに悪者呼ばわりされようと壬生を一番に考える吹雪に惹かれたのかなと。
でも吹雪は不器用だし敵役に徹するしかなくて、みんなそのへんを分かってくれない。
だからこそこの人には私がついていなきゃ――というのがひしぎの思考…だったらいいなあ(所詮妄想)



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