露天風呂



ここは壬生の一角にある露天風呂。


「ふぅ…。」

見事な月に誘われて暖かな湯船の中、穏やかな感嘆の吐息をもらすのは太四老が一人ひしぎ。

九曜にしか利用が許されていない浴場であるから滅多に人が来る事もなく、

今は彼の貸しきり状態だったりするのだ。


だからであろうか、すっかりくつろいでのんびりと月を眺めている。










カラカラと小さな音をたてて扉を開ければ湯の中に先客がいて、

こちらにも気付かぬまま、一心に月を眺めている。


仄かな月明りにうかびあがる白い肌が幻想的な艶やかささえ漂わせていて、

その様に口笛を吹けば、

やっとこちらに気付いたのか怪訝そうな瞳が向けられる。









少々月に夢中になりすぎていたらしく、

いつの間にか入ってきたらしい遊庵の口笛の意味が分からない。


ただ戸惑って見ていれば、

「綺麗だったからな」

なんとも明瞭な答えが返ってきて、

きっと彼もこの月に目を奪われていたのだろうと勝手に納得する。





「それにしても、あなたがここに来るなんて珍しいですね」

もちろん共同の浴場であるのだから彼がいても不思議ではないのだが、

以前、たぶん時人だったかに

「風呂に入る時でも目隠しは邪道」

などと言われて以来あまり来なかったはずのに。

しかも手には盆の上に並々と酒の入った徳利と杯まで持っている。


珍しいなと思い尋ねてみれば、

「ああ。たまにはな。月見て酒飲むのも悪かねーだろ」

やはり彼もこの月に誘われて来たらしい。









隣りですっかりくつろいでいるらしい己の恋人の姿にニヤリと笑って、

「なぁ、お前酌しろよ」

ずいっと盆を差し出せば

「…?」

不思議そうに見つめてくる。


「やっぱ美人の酌があった方が酒がうまいだろ」

ニヤニヤ笑って告げてやれば、

「美人って…私は女性じゃないんですから。…嫌です」

赤く染まった顔で断られる。

せっかくの機会をそんなことで逃す気もなく、

「なぁひしぎ、ここで無理やり犯されるのと、素直に酌するのと、どっちがいい?お前に選ばせてやるよ」

無情な言葉にお前がどっちを選ぶのなんか分かりきっている。

なあ?










差し出される杯に酒を注ぎつつ、己の恋人の強引さにこっそりため息をつく。

普通に言ってくれれば酌ぐらいするのに、と拗ねてみたところで通じるはずもなく、

断れば本気で無理やり犯されるであろう事も知っているから、

理不尽だと感じつつ、結局、ただ男の望むままに酌をする事になる。


穏やかな月の光の中、杯を重ねる遊庵に、だんだん怒るのも馬鹿らしくなってきて、

「どうです、もう一杯?」

こちらから尋ねれば、ニヤリと笑って

「やーっと機嫌直ったみたいだな。せっかくの美人のお誘いだしな」

空の杯を差し出す遊庵らしいどこまでも自分本位な仕種に、

思わずこぼれるのは呆れを含んだ柔らかな笑み。









流れるのは月の光に満たされた穏やかな時間。

寄り添って酒を注ぐひしぎに気を良くして、その細腰をぐいっと抱けば、

驚いた瞳を向けてくるが、抗う事もせず、大人しく身体をあずけてくる。

そのまま腕の中におさめて、しばらくそのままでいれば、流れるのは甘く優しい沈黙の時間。


こんな穏やかな時間も嫌いじゃねーけど、足される事のない酒に、わずかな退屈を覚えて、

「なぁひしぎ、別のサービスはねぇの?」

腰にまわした手をずらして、悪戯にふとももを撫で上げれば

「やぁっ…約束が違いますよ…」

油断していたところに感じたらしいひしぎが甘い声で拒む。

「別に約束は破ってねーだろ?やらなきゃ犯すとは言ったけど、やったら止めるとは言ってないんだぜぇ」

「ん、やぁあ…ずるい…」

あまりな言葉にその瞳が泣きそうなほど潤むから、

「冗談だって。いくらオレでもそんなに鬼畜じゃねーよ」

自分でも嘘くさいと思う言葉をはきつつ手をどけて、

戯れで苛めるのはこれくらいにしおく。


それでも疑わしそうにこちらを見るひしぎに、杯を差し出せば、

やっと安心したのか、破顔して杯が満たされる。


少し警戒するその身体を強引に、再び腕の中におさめれば、再び流れはじめるのは穏やかな時間











胸に頭をあずけて腕の中で大人しくしているお前はゆったりと目を閉じていて、

呼吸まで穏やかで、まどろむのに似た姿で安心しきっている。

いつまで眺めていたいと思わせる優しい静寂を破ったのは

カラカラという戸の開く小さな音と、突然の騒がしい乱入者たち。


「…何いちゃついてるの?」

抱き合った姿を見て無表情で言う螢惑の言葉に

「!?」

くつろぎきっていたひしぎが驚いて、

慌てて腕の中から逃れようとするけれど、

もちろん放してなんかやるはずもなく、

「お前らだってだろ?」

螢惑がひっぱるようにしてつないでいる手をさして揶揄するように言ってやれば、

「こ、これは…」

顔を真っ赤にした辰伶が口ごもりながら慌てて手をはなそうとする。

「いいでしょ別に。ジャマしないで」

手をはなそうとする辰伶の頑張りを無視して螢惑が不機嫌そうに言うから

「へぇそうかよ。酒もなくなったし、上がるか」

譲ってやるよとばかりに湯船を抜け出して、勝手に歩き出す。







当然とばかりに手をひけば、大人しくついて来るひしぎを

「部屋で飲み直すか」

そのまま部屋に連れ込めば、

結局ひしぎが別のサービスまでする事になるのは言うまでもない事。




「赤い柘榴石」のかげつき都希様のフリー小説を頂きましたv
フリーものを頂くことは少ないのですが、もうすぐ閉鎖されるようなのでせめて一つくらいは強奪せねば…!と思い。
ひしぎに酌されたらお風呂の中じゃなくてものぼせてしまいますv
お風呂に入った兄弟と部屋での遊ひしのその後が気になります(笑)
素敵な遊ひし&ほた辰をありがとうございますーvv



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