傍に



愛なんて望むだけ無駄で、心など欲しいと思った瞬間に空しくなる。

そこに愛や心がなければ関係を持てないだなんて、甘ったるいだけの理想で、

そこに快楽しか無かったとしても、ほら、身体は何よりも正直だ。









「ひゃあ…ぁあ……」

己が組み敷いた漢が、悲鳴とも嬌声とも取れる艶声をあげる。

僅かに掠れたそれは、心地好い音量で、

先程まで拒んでいたはずの気丈な瞳は今ではもう涙に濡れている。













「…ひしぎ」

「何か?」

思い出したように呼び止めれば律義な返事が返ってきて、

「今日はどうする?」

こんな場所で、欲望もあらわに尋ねた遊庵には、

「遠慮させていただきます」

無情なまでの即答。


ただでさえ、連夜の狂態に、いい加減自己嫌悪を覚えているというのに、

浮薄な遊庵の態度はそれだけでひしぎの神経を逆撫でして、


感情に任せて言い放った、

貴方の戯れに付き合うほど暇ではないのだ。とは、

これまでの行為を否定する言葉。


吹雪の理想に寄り添う為には余計なものは必要ないのだと、なおも言い募ろうとすれば、

「…ッ……!」

いきなりの口付けに言葉は意味を失う。








強い瞳で拒絶を述べるお前。

否定される事には慣れているけれど、悲しげな眼が気に入らなくて、

痛みを重ねるだけの言葉をこれ以上聞くのも癪に触るから、

目の前で動くその唇に、不意に口付けて黙らせる。















情事が終わって、泣き疲れたひしぎが深い眠りに落ちる頃、

遊庵は、ただ一人で暗く長い壬生の廊下を行き過ぎる。


心を許されていない己が、そのままひしぎの側にいて、

出来る事なら朝まででも寝顔を眺めていたいだなんて、ありえもしない、甘すぎて苦い夢。










気丈な瞳が涙に濡れるまで手酷く抱くのは、繰り返す情事の中で知った事。

寝台の上で泣かす事には抵抗がなくて、ひしぎが唯一感情をあらわに出来るその瞬間が、

その張り詰めた精神をつなぎ止める為に必要な事なのだとは、何時から気付いたのだろうか。


今ではもう、それが安息に繋がる事として、自分との行為は、

ひしぎの精神安定剤とも呼べる陳腐な役割を果たしている。












「いきなり現れんなよ。殺っちまうとこだったぜ」

少々自分の考えに沈みすぎていたところに、無駄な気配などたてない吹雪の出現で、

互いの実力ならば不意に刃を交えたところでそんな結果にはならないというのに、

油断していた事へのバツの悪さか、タイミングよく現れた相手への嫌がらせか、

趣味の悪い軽口が口をつく。














「…またか」

遊庵の言葉にはまるで取り合う事なく、能面のような無表情で、吹雪が吐き捨てるのは、

遊庵の様子から察したのであろう連夜の情事の事。


「生娘抱いてるわけじゃねーんだし、いいだろ」

他人の情事にとやかく言ってんじゃねーよ。とは、

面白がっているようにも聞こえる遊庵の言葉で、

「そんなに言うならお前が相手してやれよ。喜んで腰振るんじゃねぇ?」

「………」

続く卑猥な提案に答えないのは、ひしぎの想いに応える気がない事への負い目であろうか。


「無理やりって訳でもねーし、一応同意の上だぜ」

それに、本当はアイツの為になってる事だって分かってんだろ?と、

少し真面目さを取り戻した遊庵の言葉を否定する術は今の吹雪にはなくて、

「ほどほどにしておけ」

妥協を含んだ、自重を促すそれは、二人の行為を認める事にしかならない。


背を向けて歩き出せば、何も変わらない関係に、

この歪んだ情事はまた繰り返されるだけ。














「っ…やめっ…あッ」

「今更やめる訳ねーだろ」

拒む声。いつもと変わらないそれは、

そのうちに意味を失うと分かっていても、進んで聞きたいと思わせる物でもなくて、

「ッ……」

強引に口付けながら考えるのは、こんな形でしかキスすら出来ない自分たちの事。


「ぁ…遊庵……ッ」

やがて止まらなくなるひしぎの艶声に、

決して呼び間違えられる事のない名前には、満足を覚える。


それは、こんなひしぎを見ているのは自分だけだという事へのささやかな優越感。














手酷く抱いて、感情など交えずに口付け続けて黙らせるのは…互いの為。

愛なんて囁いてしまえばそこに夢を見てしまうから。

キツいだけの情事でお前を解放出来るなら、本望。

抱いて泣かせて犯し続けて…恨まれても憎まれても構わないから、


弱みを見せるのは、どうかオレの前だけにして?



損な役回りでもいいから、唯一の存在でありたいなんて、なんて夢見がちな欲望。










他人が、心など通わぬこの情事を、空しいと謗るのは、簡単な事。

けれど…そんな交わりでも、

お前を満たせるならば満足なのだと嗤うのは、愚かなオレの自負心?













吐き出し続ける無駄な欲望。

想いと裏腹な行為を続けて、痛みだけを重ねていくお前。


狂った情事が非難されるとしたら、酷い漢は、オレ、お前…それともアイツ?


愛など、想いなど、嘘でいいから……ただこの行為がお前にとっての安らぎであればいい。




またもや頂いてしまいました、「赤い柘榴石」のかげつき都希さんの遊ひし小説。
なんとウチの日記でちまちま語った遊ひし像がイメージだということで!( ̄□ ̄;) はわわ、どうしましょう…;
男前な遊庵がカッコいいですvv鬼畜な魅力もさることながら、その裏の優しさに胸キュンです。
ひしぎが好きで好きでだからこそ悪役に徹する――という私の理想の遊ひしがそのまま形になった感じです。
私にはこんな素敵な小説としてまとめられないのでとても嬉しいです〜!(T△T)
都希さん、いつも貰いっ放しでスミマセン(汗)素敵な遊ひしMOEをありがとうございました!


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