光景、情景、秘めた想い



別に…興味が無かったとは言わない。


あまりにも異質なその考え方は、充分にオレを楽しませたし、

同僚として、その強さにも一目おいていた。

だけど…それだけ。

まさかオレがただ一人に心を奪われるなんて…冗談じゃない。








私には、ついていくと決めた人がいて…それ以外はどうでも良かったはず。


その破天荒な生き方を羨ましいと思った事もあったけれど

…それはあまりにも異質であったから。

自分とはかけ離れた存在に憧れただけで、

これは決して恋などではないはずです。








自分の中に沸き起こった想いを否定して、けれど…

一度気にしてしまえば、一度気付いてしまえば…無かった事に出来ぬのが、人というもの。

互いの為にと、想いを押し殺したところで

…それは単に自分の中に想いをとどめる結果にしかならない。













高く孤独な場所。

ここからは壬生のすべてが見渡せて、いつから知ったのだろうか…ここはひしぎの気に入りの場所。

彼へのささやかな想いに気付いた瞬間から、いつもその美しい横顔をゆっくり眺めるだけの時間はおいて、

遊庵はひしぎに声をかける。

伝えるのはつまらなく事務的な内容で、決して相手との会話が不快な訳では無かったが、

簡潔に、用件のみを伝える会話が、何時しか二人の間では決まったやりとりになっていた。




「ここから…何が見えるんだ?」

「…夢の終わりですよ」

珍しく会話を重ねた遊庵に、特に驚くでもなく、一呼吸置いたひしぎが応えるのは、

ひどく静かな声での…破滅。


吹き付ける風が上着の裾を揺らして、乱れた髪で見えぬ表情は、

きっと恐ろしいほどに美しく悲しい…。


「壬生を目の前にした太四老ひしぎの言葉とは思えねぇぜ」

「貴方もご存じでしょうに」

幾分からかいを含んだ問い掛けも、冷静なその声の前ではなんの役に立たなくて、

信念を持ちながらも…理想を持たぬ辺りが似ているのだと、遊庵は苦笑を浮かべる。


異質でありながら、ある一点で酷似している自分たちの様に、確かな安堵を覚えるのは事実で、

踏み込み過ぎてこの関係を壊すよりは…と、

距離を取るのは、ずるい大人の処世術。


抱き合う関係の不安定さよりは、背中を預けられる信頼がいいのだ。と、

嘘でも、強がりでも、真実でもなく、二人の距離は保たれる。







そう、何事もなければ、このまま…平行に、平等に、永遠に、二人の間の距離保たれるはずであった。

けれども、不安定な均衡が壊れるのなど、案外呆気ないモノで、

きっかけは呆れるほどささいな瞬間。













珍しい事もあるもので、偶然にも遊庵が見つけたのは無防備に寝入るひしぎの姿。

初めて見るその寝顔は、恐ろしく静かで、

わずかな呼吸がなければ、整った顔と相俟って、まるで精巧に作られた人形のようにしか見えなかっただろう。

初めて見るその様子に、興味をそそられた遊庵が更に間近に美貌を覗き込んで、

意外な睫毛の長さに見とれた時にはもう遅かった。


気付いた時には、その形の良い唇に、深く口付けていて、

仮にも太四老であるひしぎが、そんなことをされて起きぬはずもない。


「っ…ふぁ……?」

自分に起こっている事が理解出来ないのであろうか、問い掛けは何処かまぬけで、

「っ…?!ふぁ……やぁッ!」

しばらく唇を貪り続ければ、徐々にはっきりした意識で、

自分たちの行為に気付いたひしぎが暴れようとする。

しかし、遊庵に強く抱き込まれた体勢では、どうする事も出来なくて、

「んぁぁ……はぁッ…んん…やぁ……遊…庵…っ」

深く差し込まれた舌の感触に耐え兼ねたひしぎだが、

その腕からは逃れられなくて、突然の口付けから開放されたのは、遊庵の力が緩んでからの事。

咄嗟に強く突き出した腕で距離を取り、

「っ…貴方であっても許されぬ事がありますよ!」

冗談では済まされぬ事もあるのだと、撥ね付ける言葉は、

それでも動揺のためか、わずかに振え、そして小さく掠れていた。


くるりと踵を返した足で迷いなく立ち去ったとしても

…それは虚勢と分かる強さだった……。









もし、強引な口付けに喘ぐ声が無かったら、その身体がわずかでも振るえていなかったら、

そして…問い掛ける声がそんなにも弱くなかったら、

何かが違っていたかもしれない。

けれど…それはもう遅い仮説で…

もういい、認めてやるよ。オレの負けだ。

もう誤魔化せない、お前以外が見えない…このイカれたこの感情。





村正の最後の誘いを断って、吹雪に捧げると決めたこの命。

その誓いは、真実。

けれど…遊庵の気紛れに、想いは確信的で、

遠い理想の為、無くしたと思っていた心はざわめくばかり。

貴方の理想に力と信頼は捧げましょう。だから…どうか心だけは、あの人を想う事を許してください。












相変わらず、壬生の地を見渡すひしぎの顔は憂いたままで、

仮にもついていくと決めた漢の隣りで造り上げた世界を見る者の表情では到底ありえない。

お前等が成した事にどうこう言うつもりは無いけれど、

でも・・・どうか、そんな悲しい眼をしないで。





「ひしぎ…」

「遊庵……丁度良かった…貴方に言いたい事があります」

「こっちもだ。…オレから言わせろよ?」

言う前に玉砕なんてかっこ悪すぎだろ。なんて苦笑を浮かべた遊庵が、

ひしぎの返事も待たずに想いを告げて、

「遊庵…?」

「ひしぎ、愛してる」

問い掛ける声には、身勝手なほど強引な愛の告白。


断られるものと決めてかかって一気に告げれば、

後に残るのは、言いたい事を伝えきった清々しさだけで、

戸惑うひしぎの表情は、

きっといつものように冷たく切り捨てられると思っていた遊庵にとって予定外のもの。


「…一応……断れよ」

フラれるにしても一言返事くらいあるだろ?とは、最もであるはずなのに、

なおも想い人は無言のままで、

「ひしぎ?」

「私も…貴方を愛しています」

問い掛けには、驚くほど真剣な声音。

そのまま更に言葉を重ねたひしぎによって、

自分たちが両想いであった事を知る。









「何時かお前がアイツを庇う時には、先にオレがお前を庇って逝ってやるから」

「遊庵…?」

想いを告げ合った後とは思えない不吉な会話にひしぎは眉を顰めて、

自分の言葉の意味を誤解したらしい様に、

「お前は最後まで望む事を成せばいいんだよ」

それと気付いた遊庵が浮かべるのは強い笑みで、


嘘でもエゴでも間違いでもいいからやりたいようにやれよ。

などと言い切るのが遊庵なりの優しさ。

それは誰よりもひしぎの思いを知っている遊庵だからこそ言える言葉。



「でも、オレがいる限りお前を笑わせてやるよ」

お前を幸せにしてやるから覚悟しろよ。と、笑う遊庵が、

強い風に吹かれながら手を差し出して、

迷いのないそれは信じるに値する強さ。




貴方が側にいれば世界は色を変える。



「赤い柘榴石」のかげつき都希さんの2000ヒット企画でリクエストさせていただきました!
リクは「実は両思いなのに互いを思うあまり素っ気無い態度をとる切ないゆんひし(でもハッピーエンド)」
(迷惑という言葉を知らないのか)(それモンゴル語ですか?)(撲殺)
わけのわからないリクだったというのに素敵な小説を書いてくださったばかりかちゃんと内容に沿ってくださった都希さんに感謝の嵐です・・・!
投げキッス投げキッス!(お願いですから勘弁してください…)

二人の不器用さが切ないです〜(T△T)遊庵もひしぎもお互い愛し合ってるのに〜。
でも最後は思いが通じ合ってハッピッピ!
最後の一文がたまりません…!ひしぎを有彩色の世界に連れてきた遊庵。カッコいいですvv

都希さん、リクエスト受け付けて下さりありがとうございましたv
これからも分刻みでストークさせて下さい(ミトコンドリアはあっちへおいき!)(単細胞生物なので言っている事が理解できません)



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